魂のインターネット

まえがき


地球の上に人類が出現してから三百万年あるいは五百万年になるといわれます。その間、人類は長い長い旅を続けてきました。それは人類が、霊性を完全に喪失した純粋の物質である状態から出発して、再び霊性を取り戻す、という「霊性回復」の旅です。

多くの人は、唐突に出てきた「霊性回復」という言葉に戸惑われるかも知れません。それは本来人間が「霊性」を持っていたということを意味するからです。その通りです。人間は本来霊的な存在でした。それがある理由で霊性を失っているのです。正確にいえば、霊性を失ったのではなく、忘れてしまったのです。そして地球という物質世界の中で、主として物質的な進化だけを追い求めてきました。けれどもいま、人類は物質的進化のほとんど頂点にまで到達してしまいました。これからは霊的存在へと進化しなければなりません。さもなければ、人類は自分自身を滅ぼしてしまうでしょう。

二十世紀は「戦争の世紀」と呼ばれました。いまだにその時代の思考の尻尾を引きずっている人もたくさんいます。けれども、二十一世紀を迎えたいま、人類の関心はゆっくりと、けれども着実に、霊性へと向かいはじめています。その一つの現れが、1999年2月27日、日本経済新聞の文化欄に報道されました。国連の世界保健機関WHOは、いままで肉体的、精神的、社会的という三つの側面から健康を定義していましたが、この定義に、スピリチュアルという言葉を入れる案を会議に諮る準備をしているというのです。日本の厚生省(当時)がスピリチュアリティーという言葉を何と訳すかに、頭を痛めているという記事でした。最近、WHOのホームページを覗いてみましたが、残念ながらスピリチュアルという言葉は見当たりませんでしたので、この案は採択されなかったのだと思います。まだ、一部の人々を除いて、全体としての歩みは遅々としていますが、昔は心や霊や魂などという言葉には目もくれなかった物理学者や生物学者、医師などがまじめに研究テーマにしても、非難されるケースが減っていると思います。

けれども、人間が霊性を回復するためには、私たちが世界について持っている基本的なイメージを変えなければならないと、私は思います。そうしないと、霊性についての教えを受け入れるために余分な努力が必要になるからです。霊性というのはいま急に出てきた問題ではありません。宗教や哲学の領域では、はるか昔からさまざまな思想があり、教えが伝えられています。けれども、現在私たちが持っている基本的な世界像は、人間の霊的側面と物質的側面を統合的に把握するには不適切であり、古来の宗教家や哲学者らが与えてくれた深遠な教えも、なかなかスムーズには心に入ってくることができません。

現代は、旧約聖書に描かれた預言者の時代に匹敵する刺激的な時代です。預言者というのは、未来を予言する人ではありません。神から言葉を預かった人という意味です。紀元前1000年から紀元前500年頃のあいだ、「神」と呼ばれた非物質的存在は、預言者を通してユダヤ民族にさまざまな教えを与えました。そのことが旧約聖書に語りつがれています。現代もまた、肉体をもたない非物質的存在たちがさまざまな方法で私たちに新しい教えを伝えてくれています。一般的にチャネリングという名で呼ばれているこういうものを、非科学的の一言で片付けて顧みようともしない人たちも大勢いますが、情報はだれが伝えたかではなく、何が語られているかが重要なのです。これらの情報を仔細に検討すれば、とても人間の想像力から根拠なく生み出されたとは思えないような宗教的、哲学的な言葉が随所に発見されます。しかしそれらの新しい教えも、従来の世界像とは相性が悪く、なかなかしっくりとは理解できないのが現状です。

本書は、私たちが住んでいる世界が本当はどんなものであるかということについて、まったく新しい世界像を提供します。肉体の感覚によって得られる経験をベースにした従来の世界像に慣れた目から見れば、最初は非常に奇異な考え方に思えるかもしれません。けれども、まじめに検討していただければ、この新しい世界像が、従来水と油のように親和性の悪かった物質的世界と宗教的、霊的な世界、そして哲学的な実在の世界を統合するものであることを理解していただけると思います。

この新しい世界像は、近年発達したある新しい技術をモデルにしています。そのような技術が発達したために、いままで思いつかなかった新しい世界像を描くことが可能になったのです。私は、人間がこのような技術を発達させることになったのも、決してただの偶然であるとは考えていません。それは実は霊的世界の構造からくる必然であったのです。人間は無意識のうちに、霊的世界と同じ条件をこの地上の世界に実現させようとしているのです。したがって技術が進めば進むほど、地上の世界は霊的世界に似てくるのです。

本書は4部構成になっています。第1部は新しい世界像の全体構成を概略説明します。第2部ではもうすこし詳しく、新しい世界像のさまざまな側面、すなわち神から物質世界に至るさまざまな存在の働き方のメカニズムを取り上げます。第3部は、そのような世界の中で霊性回復の道を歩むために、どのように意識の持ち方を変えて行ったらよいのかということの参考になるような文章を書いたつもりです。いわば、第1部がハード、第2部がソフトの説明であるのに対し、第3部はコンテンツです。第4部には、新しい世界像そのものではなく、その背後にあるいくつかの考えを補足しました。

私はキリスト教の環境で育ちましたので、本文中にキリスト教的表現が多く使われていますが、キリスト教だけが正しい宗教だなどというつもりは毛頭ありません。すべての宗教が霊性回復のための多様な道の一つだと考えています。仏教の教えについても、私の理解している限りでできるだけ公平に触れたつもりです。ただしキリスト教にしても仏教にしても、私の解釈はあまり正統的ではないので、正統的なものを知りたい方はそれぞれの聖典や書物で勉強してください。また日本人は無宗教を自認する人も多いのですが、霊性回復は宗教によらなければできないわけではありません。霊性を回復するときには、いずれすべての宗教を超えて行かなければならないのです。人間とは何かを真剣に考えていただければそれでよいと思います。

本文中、聖書の引用はすべて日本聖書協会の新共同訳聖書によりました。
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