魂のインターネット

鏡の部屋


いまから五十年近く前になりますが、たいへん示唆にとんだ空想科学映画がありました。その題名を「禁断の惑星」といいます。
 
地球からきた探検隊の宇宙船が、ある惑星に着陸します。この惑星はむかし高度の文明が発達していたのですが、あるとき突然滅びてしまったので、探検隊はその原因を探りにきたのです。

探検隊はその星の遺跡近くに下りて調査を開始しますが、三日ほどすると何か怪しげなことが起こり始めます。探検隊員以外にはまったく生物がいないはずの星に、何か動くものがいるようなけはいがするのです。そのけはいは次第に強くなり、やがて隊員が何かに襲われるという事件が起こります。けれども、この星にいったい何が住んでいるのか皆目見当がつきません。

やがて映画のクライマックスになります。いまや白昼堂々と姿を表した巨大な怪物が、探検隊の調査基地を襲ってきます。隊員たちは必死に防戦しますが、その戦いの最中に、その文明の古代の資料を研究していた学者たちが解読に成功します。

この星の住民たちは、意識を物質化する装置を開発したのです。それはまるで「ご馳走、出てこい」といえばご馳走が出てくる魔法のテーブル掛けのようなもので、住民たちは最高の繁栄を謳歌したのですが、突然えたいの知れぬ怪物に襲われるようになり、滅びてしまいます。その怪物は、住民たち自身の潜在意識が物質化したものだったのです。

住民たちが滅びた後、その装置は星の地下深く眠っていましたが、地球からきた探検隊員が地上に降りたためにその意識の波動に感じて目を覚まし、再び活動を開始したのでした。危機一髪のところで、探検隊はその装置を破壊するのに成功します(そこは映画です)。怪物はあっという間に消滅し、探検隊は無事に地球に帰ってくる、という話です。
 
ただの空想物語のように見えますが、実は人間の真実を描いています。人間は一人一人自分の意識が現実化した世界に住んでいるのです。

たとえていえば、私たち人間は、みんな鏡の部屋に住んでいるようなものです。

大きな部屋の真中にあなたがいると思ってください。周りは全部鏡で埋め尽くされています。壁も天井も床も、大小無数の鏡でおおわれています。しかもそれらの鏡は、いろいろな向きがあり、拡大するものや縮小するものもあり、互いに反射しあって、もともと何を映しているのかわからないほどになっています。

けれども、そのすべてがあなたの一部を映していることは確かです。その証拠に、もし、あなたが全身を赤い衣でおおうなら、周りの鏡も全部赤くなるでしょう。もしあなたが青い衣で全身をおおうなら、あなたの周りの世界は全部真っ青になるでしょう。

あなたの周りに見えるものの中にはあなたが見たことのないものもあります。たとえば黒いくさむらのような怪しげなものがあります。あなたは、こんなもの自分であるはずがない、と思いますが、それはあなたの後頭部を拡大して見せているのです。

私たちは、肉体でさえも、後頭部のように自分で見ることができない部分を持っています。まして私たちが住んでいるのは、心を映す鏡の部屋です。私たちは、心の中に、こんなもの自分の中にあるはずがないというようなものを持っています。あなたが「外界」だと思って見るものは、すべてそのようなあなたの心が映し出されたものなのです。

そのような世界の中で生きていくためには、あなたの心の持ち方を「外界」から影響されないようにしなければなりません。周りが赤いから自分も赤い服を着ようと考えていたら、世界中がますます真っ赤に染まっていきます。周りが赤いなら自分はせめてハンカチだけでも青くしよう、と考えてください。そうすれば、世界のどこかに青い部分が生まれます。

自分が手に入れたいものをまず自分の心の中に持つこと、これが大原則です。手に入れたいものといっても、それは物質的なものではありません。自動車とか家とか、そういうものではなくて、自分が感じたい感情を、理由なしに、自分の心の中に持ってください。喜びでも、幸福でも、満足でも、平和でも、自分が感じていたい感情を、理由も対象もなしに、感じることをしてください。それがハンカチを青くするということです。

私たちは、外の世界に何か出来事が起こったのを見て、怒ったり笑ったりしていると思っています。まず外の世界に原因があり、それによって私たちの心の中に感情や判断の結果が生まれると考えています。けれども、本当は、原因と結果の順序が逆なのです。まず私たちの心の中にかすかな怒りや笑いが生まれるのです。それは潜在意識の中なので、私たちはまったく気がつきません。それから、その怒りや笑いの対象となる出来事が外の世界に映し出されます。それを見て、私たちは目に見える形で怒りや笑いを体験します。このようにして、潜在意識にあったかすかな怒りや笑いが顕在意識の中にはっきりした形を取るようになります。

あなたの外界にあると思われる現象はすべて、このようにあなたの潜在意識が顕在意識に上昇してくるプロセスの一部なのです。そして、顕在意識に生じた感情や判断は、適当な方法で解消しない限り、また潜在意識の奥深く沈んで行きます。このようにして絶えずぐるぐると回り続けているのが、私たちの心の中です。

外の世界を青くしたかったら、まず自分が青くなってください。聖書に教えられている「どんなことにも感謝しなさい」(聖書、テサロニケの信徒への手紙T、5章18節)という言葉は、外界の何かに対して感謝しなさい、と言っているのではありません。外界がどんな状況にあっても、それとは無関係に心の中に感謝を満ち溢れさせていなさい、という意味です。対象のない感謝が本物の感謝です。原因のない喜びが本当の喜びです。まず内面に感謝や喜びがあるとき、それが外の世界に感謝や喜びの原因をつくり出すのです。
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