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目には愛を、歯にも愛を


あなたがたも聞いているとおり、「目には目を、歯には歯を」と命じられている。しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。

(聖書、マタイによる福音書、5章38―39節)

この本の原稿を書いているときに、歴史に残る事件が発生しました。2001年9月11日に発生した米国でのテロ事件です。この章を書いているいま、米国はアフガニスタンを攻撃中であり、米国の国内では炭そ菌による生物テロと思われる事件の被害が拡大しています。

人間は永い歴史の時間をかけて、正義の社会の実現を夢見、そしてそのためにそれぞれの人が最善の努力をしてきました。けれども、いまだに正義の社会の実現はほど遠いようです。このような言い方をすると、両方の陣営から、正義の実現を望まない連中がいる、という非難の声が聞こえてきそうですが、それは実現しようとしている正義の内容が違うだけで、それぞれは自分が正義だと思うことの実現を図ってきたのです。

このような事件が発生する要因はいろいろの見方ができます。政治的、経済的、社会的、あるいは歴史的、宗教的、民族的要因が複雑に絡み合って、一つの事件の形を取ります。そのような角度からの分析は、その道の専門家にお任せしますが、私はここで霊的、あるいは「意識」的要因について述べておきたいと思います。

「意識」的要因と括弧付にしたのは、「意識」という言葉に特別の意味があるからです。「仮想現実の作成メカニズム」および「潜在意識のわな」という章で述べたように、私たちが体験する「外界」は私たちの心の内面が反映されてつくられたものです。したがって、外の世界で問題に取り組むだけでは、決して問題の根本的な解決には至りません。すくなくとも、外側の世界につぎ込む努力と同じくらいの努力を内面の世界につぎ込まなければ、まるでもぐらたたきのように、一つを解決すれば別のところに別の問題が発生することになります。

「意識」の観点から見ると、なぜ米国でテロが発生したか、ということには理由があります。それはテロ発生直後のブッシュ大統領の発言に端的に表れています。ブッシュ大統領はテレビの演説でこう言いました。「米国は強い国です。」これが大統領と米国民の潜在意識にある観念です。大統領のような組織の長に選ばれる人は、そのときの国民の潜在意識にある観念の何かを代表する人が選ばれるのです。米国民は、強いということに最高の価値を置いています。強さが正義なのです。それは精神の強さであると同時に、肉体的、物理的な強さ、すなわち武力でもあるのです。それは、国内でどんな事件が起こっても決して銃を手放そうとしないことにも表れています。

潜在意識のこのような観念は、強さを証明する出来事を必要とします。それがテロ事件です。このような出来事があることによって、米国は自らの強さを証明するチャンスを得るのです。潜在意識のすることは、小説家が物語を書くのと同じやり方です。それは、宮本武蔵のような剣豪を主人公とする小説でも、海外にまで人気を博したテレビドラマの「おしん」のような物語でも同じです。主人公の強さを証明するためには、できるだけ強い敵や厳しい境遇が必要なのです。主人公はそれに打ち勝つことによって自分の強さを証明するのです。

米国と世界は、何とかこの事件を乗り越えるでしょう。けれども、それで問題が終わるわけではありません。これは、私たち人類が「霊性への帰還の旅」から突きつけられている問いかけなのです。「あなたたちは今までと同じやり方を続けますか、それとも、このあたりでやり方を変えますか。」という問いかけがなされているのです。

この事件は米国の潜在意識が呼び込んだものであるとしても、それではその出来事を見ている私たちはどうなのでしょうか。責任はないのでしょうか。私たちは、自分の心にないものは決して見ることはできないのです。ということは、私たちがこの事件を見ている限り、何らかの責任があるということです。テロ事件とそれに対する報復(大統領は報復という言葉を慎重に避けているようですが、報復でも鎮圧でも予防でも、武力によってテロに対抗しようとする点では同じです。)に相当するような意識が、私たちの心の中に存在しているということです。おそらくだれもそんなことはないと思うでしょう。けれども、もし私たちの心の中が隅から隅まで愛のエネルギーに満たされていたなら、この事件は決して起こらなかったはずです。これは私たちの心の中の、愛エネルギーが欠けている部分が外部に投影されているのです。(愛エネルギーについては神の正義と人の正義を読んでください。)

「霊性への帰還の旅」が問いかけている問とは、「あなたたちはまだ物質レベルで対応しますか、それとも霊のレベルで対応しますか」という問です。

もしあなたが、霊のレベルで対応しようと思うなら、愛のエネルギーを米国の大統領にも、タリバンの指導者たちにも送ってください。テロリストに愛エネルギーを送るのは、テロに賛成することではありません。大統領に愛エネルギーを送るのは、報復に賛成するわけではありません。彼らはどちらも愛エネルギーが不足しているのでテロと報復の応酬を続けるのです。彼らの心にあいているブラックホールを愛エネルギーで埋めない限り、同じ事件は何度でも起こります。そして、同じブラックホールは、私たちの心の中にもあります。私たちがこの事件を目撃しているということがその証明です。私たちが自分の心の中のブラックホールを愛エネルギーによって埋めない限り、私たちは同じような事件を何度でも繰り返して見ることになるでしょう。

愛エネルギーを送るというのは、必ずしも、物質世界での行動を否定するわけではありません。必要だと思うなら武力攻撃もしてください。戦争反対や暴力反対運動も結構です。けれども、どんな行動も、怒りや憎しみや恐怖や軽蔑の心で行うなら、それは一つの穴を埋めるために、よそに穴を掘ってそこから土を持ってくるようなものです。穴が埋まった頃には、別のところに同じ大きさの穴があいています。

いま米国は非常に象徴的な戦術を取っています。爆撃をするのと同時に、援助物資を投下しているのです。これと同じやり方をしてください。もしテロリストに砲弾を打ち込むのなら、砲弾と一緒に憎しみではなく愛エネルギーを打ち込んでください。大統領に戦争反対のメッセージを届けるなら、怒りではなく愛エネルギーと一緒に届けてください。何もすることがない人は、心の中で愛エネルギーを送りつづけてください。あらゆる人に、あらゆる地域に、あらゆる出来事に、愛エネルギーを送ってください。

この地球の上に、愛エネルギーの絶対量を増やすほかに解決の道はないのです。この地球の上には他にも愛エネルギーの不足している場所がたくさんあります。インドとパキスタン、イラク、イスラエルとパレスチナ、アイルランド、東ティモール、その他たくさんの紛争地域があります。一般社会の小さな事件は、それこそ浜の真砂のように、毎日数え切れないほど起こっています。

それらのあらゆる事件が、私たちの心にある大小無数のブラックホールを示しています。それらの事件に愛エネルギーを送るというのは、実は自分に愛エネルギーを送ることなのです。私たちは、どの事件が自分の心の何に対応しているのか知ることはできませんが、外の世界と内の世界はつながっています。外の世界に愛エネルギーを送れば、それは内側の世界にも届きます。心の内側に愛エネルギーを送れば、外の世界にも届きます。

そして重要なことは、あなたが見ている世界は、あなたの心の中であるということです。そこにあるブラックホールを埋めることができるのはあなたしかありません。ただひたすら、あなたの内側と外側に愛エネルギーを送りつづけてください。それが世界を救う道です。

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