光の時代

L18 フリッパーのように(H9)


皆さんは、逆立ちする船があることを知っていますか? 普通の船は、マッチの棒を水に浮かべたように、横に長くなって浮かんでいますね。けれども、この船は、マッチの棒を水に突き刺したように、水中に直立するのです。

冗談ではありません。れっきとした現実の話です。jこの船は米国のカリフォルニア大学付属のスクリプス海洋研究所が持っています。フリッパーと呼ばれているそうですが、フリッパーというのは、「ひっくり返す」という意味だそうです。

研究所のホームページで見ると、この研究所はほかに4隻の観測船を持っていて、それらはいずれもリサーチ・シップと書かれています。この逆立ちする船は、リサーチ・シップではなく、リサーチ・プラットフォームと書かれているので、正確には船ではないのかも知れません。自力で航行できず、ほかの船に引っ張られて目的地まで連れて行ってもらいます。目的地に着くと、タンクに海水を入れて、頭の方から沈みます。全長108メートルのうち、90メートルぐらいを水中に沈めてまっすぐに逆立ちした形になります。水上に出ている船尾の部分に人間のいる場所があり、そこで研究のための様々な観測が行われます。

なぜ、こんなヤヤコシイことをするのでしょう。それは、このように水中に直立すると、波の影響を受けなくなるからです。普通の船のように、横に長く寝そべって浮かんだ形では、絶えず波に揺られるために、正確な観測や調査に支障が出ます。

海面は絶えず波があって揺れていますが、実は海水というのは、数十メートル沈むと、ほとんど動きません。揺れているのは、ほんの表層の水だけなのです。しかも、海面に出ている部分の面積が大きいほど、波の影響を受けやすくなります。そこで、フリッパーのように、細い体を縦にして水中に突き刺した形にすると、波の影響が少なくなり、しかも100メートル下の水はほとんど動かないので、船の位置を正確に固定できます。このため、正確な観測ができるというわけです。
 
 
 
さて、人間の心というのは、実は、海に似ています。心の表面は絶えず波立ち騒いでいますが、私たちの心の奥には、太平洋の深海の水のように、揺れ動かない部分があります。それは、ひっそりと静かでありながら、しかも、何ものにも左右されない悠久の流れとなって存在しています。それは、私たちの深層の意識であり、生命のエネルギーであり、無条件の愛と無限の知恵のエネルギーです。

私たちは、表面の騒ぎ立つ波だけを見て、それが自分であると思い、また、他人の姿であると思っています。けれども、それは、私たちの見かけの姿のごく一部分にすぎません。私たちが、もし、フリッパーのように、深層の意識の上に直立して、そこから海面にちょっとだけ顔を出したような生き方をできるなら、私たちは、海面の波に左右されず、物事の真実の姿を観測できるようになるでしょう。

私たちの本質は、深層の意識にあります。私たちは肉体が自分であり、肉体がすべてであると思っていますが、それは、海面の一つの波頭程度のものにすぎません。波は生れたり、消えたりします。けれども、深層の海水は、生れることもなく、消えることもなく、静かに、ゆったりと、力強く流れ続けます。

フリッパーのように生きてください。深層の意識の上にしっかりと立ってください。そうすれば、海面で波がどんなに騒いでも、あなたが揺さぶられることはないでしょう。あなたは波ではありません。あなたは波を観察する観測船なのです。波風が荒れ狂う嵐の海も、波頭が日光にきらめく穏やかな海も、北斎の絵を見るように、楽しんでください。





2013年5月13日
2014年7月21日改題


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