霊性の時代

A18 ナルニア国物語



『ナルニア国物語』という映画を見ました。原作は、イギリスの哲学者であり、神学者・牧師でもあるC.S.ルイスという人が書いた子供向けの童話ですが、たくさんの寓意がこめられていて、大人が読んでもたいへんおもしろい物語です。全部で7編あり、今回はその第2編「魔女とライオン」という物語が映画になりました。なぜか第2編がこの一連の物語の最初のエピソードになっています。
 
第二次大戦のとき空襲を避けて疎開した日本の子どもたちと同じように、ドイツ軍の空襲を避けたイギリスの4人の子どもたちが、田舎のある教授の家に疎開するところから物語は始まります。日本人の常識では想像できないほど広い教授の家でかくれんぼをした子どもたちは、隠れようとしてもぐりこんだ古い衣装ダンスの中から、突然ナルニアという不思議な国に迷い込みます。ナルニアに住んでいるのは、言葉をしゃべる動物たちやギリシャ神話に出てくる半人半獣の妖精など、おとぎ話に登場する生き物ばかりです。ところが、そこはいま、悪い魔女に支配されているため、100年間も冬が続いています。そして、ナルニアには、「4人の人間の子どもたちが来て王座に座るとき、冬が終わる」という古い言い伝えがあるのです。何も知らずに迷い込んだ4人の兄弟姉妹が、その言い伝えのとおりに、魔女を打ち倒して冬を終わらせる・・・というのが、物語のあらすじです。
 
ところで、私がいま、この話を書いているのは、ナルニア物語そのものを紹介しようというつもりではありません。その映画の中の一つのシーンを皆さんにお話ししたいからです。
 
魔女の館の庭には、いろいろな動物や妖精たちなど、ナルニアに住む生き物たちの石像がいっぱい立っています。実はこれはみんな魔女によって石に変えられてしまったナルニアの生き物たちなのです。魔女はナルニアを100年間も冬に閉じ込めてしまうような氷の女王です。自分の気に入らない生き物はみんなカチカチに凍らせて石にしてしまうのです。
 
4人の少年少女がナルニアに迷い込んだことによって伝説の力が働きだし、ナルニアの運命が変わり始めます。そして、アスランという名のライオンが登場します。アスランは、子どもたちに協力して魔女を倒し、ナルニアを魔女の魔法から解放します。
 
魔女を倒したあと、アスランは子どもたちと一緒に魔女の館にやってきます。そして、庭に立っている石像の一つ一つに、ハーッと息を吹きかけて歩きます。すると石のように固く凍っていた像が溶けて、生き物たちが一つ一つ息を吹き返していくのです。
 
私が皆さんにお話したいのは、この「ハーッと息を吹きかける」という小さな仕事のことです。私はよく「愛を送りましょう」と言いますが、「愛を送る」というのは、まさにこの「ハーッと息を吹きかける」ということなのです。愛を送ろうとする人を暖めてあげるつもりで、心の中でハーッと息を吹きかけてあげてください。それが愛を送るということです。
 
いま、皆さんの目の前には、たくさんの「悪い」人がいるでしょう。ふつう私たちは、そういう人に対して、怒りや恐れや憎しみや非難の目を向けます。それは、心の中でその人に冷たい風を送っているようなものなのです。「悪い」人というのは、心が冷え切ってカチカチに固くなり、石像のようにかたまった人です。そのような人に冷たい風を送れば、その人の心はますます固く凍ります。私たちがいくら悪い人を非難したり憎んだりしても、悪い人がなくならないのはそのためなのです。
 
そうではなくて、物語の中のライオンがやったように、そういう人に対して、心の中でハーッと息を吹きかけてください。固く凍った心は温めてあげるほかに、それを溶かす方法はありません。今、地球世界は、魔女に支配されていたナルニアのように、固く凍りついています。あなたが春の女神になったつもりで、この凍りついた世界に、心の中で暖かい風を送ってあげてください。凍りついた地球を暖めることができるのは、私たち地球に住むものだけなのです。

2006年4月28日掲載

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